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スクールデスコ

外はサクッ、中は腐ってる日記

100年映画館を巡るひとり旅の記録

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準備

金曜日に急遽休みが取れたので何をしようか考えていたところ、妻が「旅行でも行ってくれば」と言う。休みの日に映画を観に行ったり飲みに行ったり1人で行動するのは慣れたものだけど「1人で旅行する」というのはどうもピンと来ない。ただいつかは実行してみたいプランがあった。それは地方の昔ながらの映画館を巡って、映画を観ること。「映画館に行って外から眺めるだけ」なら、今までもそうしてくれた通り妻も旅行ついでに付き合ってくれるだろう。でも「中で映画を観たい」と言いながらロングシュート決めたら妻はどんな顔するだろうか。今うちには可愛い猫ちゃんがいるので、彼らを置いて2人で旅行するわけにもいかないし、地方の映画館の現実問題としていつまでそこにあるか、営業しているかわからない…そんなことを考え出したら矢も盾もたまらず外出中の妻に「金土で新潟行ってきていい?」とメッセージを送ったところ30秒もかからず「行ってきなー!」という返事が返ってきたのでした。

なぜ新潟なのかと言えば、「高田世界館」という、ずっと行ってみたかった映画館があるからだ。開業は1911年。現役で営業している映画館としては日本最古級だと言う。さらに隣の長野県には「上田映劇」と「相生座」という、これまた100年級の映画館がある。この3つをハシゴできないだろうか。グーグルマップと上映スケジュールを交互に見ながら1泊2日の行動計画を立てる。どうせその通り行かないのはわかっているのだけれど。よし、上越妙高を拠点として、上田→長野→高田と巡るのがなんだかよさそうだ。新潟の土地勘が全くないので、ついでに越後湯沢とか新潟駅の方とか寄れないかな?と思ったけどフツーに無理だった。

1日目

朝6時過ぎに家を出て、新幹線で上田駅を目指します。念のため指定席を取ったのだけれどホームに入ってきた自由席がガラガラで悔しい。いつもならニューデイズでビール数本と朝ごはんを買い込んで座席に乗り込むところですが、着いたらすぐ映画を観ることになるので水分を過剰摂取するわけにはいかない。俺のわがままBokoがそんな暴挙を許すはずがないのです。発車のタイミングで車内の各所から「プシュッ」という音が聞こえてくる。朝からやってんな〜(ニヤニヤ)。というか隣の席の30代くらいの兄ちゃんが缶ビールをおーいお茶かの如く飲んでいる。きっちりスーツを着て明らかにこれから仕事か真面目な用件っぽいのですが…俺も早くそれになりたい。

1時間半で上田駅着。近い近い。そういえば上田ってサマーウォーズの舞台だったな。スマホで画像を検索して、劇中場面と同じ構図を探して写真を撮る。劇中では後ろにガスタンクが見えるのだけれど、窓が曇ってて見えなかった。というかそもそも角度的に映らないんじゃないだろうか…などと首を捻っていたら駅員に怪訝そうな顔で見られる。気付けばホームには俺しかいない。2022年にもなってサマーウォーズの聖地巡礼する人間はいないのかもしれない。

駅を出る。東京より冷たく澄んだ空気が気持ちいい。俺は今ひとり旅をしている。折りたたみ傘を広げるほどじゃないほどの小雨が降るなか10分ほど歩くと「上田映劇」という大きな看板が見えてくる。これにはちょっと意表を突かれた。というのもネット情報によると、2014年に公開された「陰日向に咲く」のロケに使われて以来、外観が「浅草仕様」になっていると思っていたから。だから看板も「花やしき通り」と書かれているはずなんだけど…最近取り外されたのだろうか。でもよかった。浅草ver.もレアだったけど、本来の上田映劇の姿を見られる方がやっぱり嬉しい。

しかし早く着きすぎてしまった。上田映劇のすぐ近くに「トラゥム・ライゼ」という、どこぞのV系バンドのような映画館があるらしいので行ってみる。実はここも1921年に開館した上田電気館が前身という歴史ある映画館とのこと。その割にはめちゃくちゃ近代的な外観だな…と思ったら1998年に建て替えたみたいです。外観の写真を何枚か撮ってから再び歩いて上田映劇に戻る。それでも初回の上映時間までまだ30分以上あったのですが、どうやらもう中に入れそうだったのでドキドキしながら扉を開ける。受付で初回上映分のチケットを買って「中の写真撮ってもいいですか?」と確認してから、いざ劇場内へ。

もう一歩入った時点で「来てよかった!」が全身を駆け巡りました。やっぱり写真で見るのと自分の目で見るのとでは全然違う。実際のところ写真よりは少しこじんまりしてるように感じたのですが、とはいえミニシアターと呼ぶには広いし、何より「劇場」という意味での貫禄がすごい。今まで行った中でいちばん近いのは台湾の全美戯院でしょうか。ワクワクが止まりません。二階席があるはずなのですが、二階に上がる階段が椅子で封鎖されており、聞いたところ今は開けていないとのこと。残念でしたが、また次の楽しみとしましょう。物販ではパンフレットなどの他、なんとA24(イケてる映画製作・配給会社)のTシャツやキャップなどのグッズも売っている。上映ラインナップもめちゃくちゃ尖ってるというか「わかってる」し、単にレトロで懐古趣味な映画館じゃないぞという心意気を感じました。

観た作品は「ロックフィールド 伝説の音楽スタジオ」。伝説の…というか全然知らなかったのですが、これまで錚々たるミュージシャンが使ってきたウェールズにある滞在型スタジオのドキュメンタリーでした。70年代や80年代のクイーンやボウイの大物エピソードも面白かったけど、何より90年代ブリットポップのエピソードにブチ上がった。シャーラタンズのロブが亡くなったのはパブからこのスタジオに戻る時だったのか…。このスタジオだから生まれる魔法(wake up boo!)もあれば、合宿のような生活で四六時中一緒にいるからこその軋轢もある。そんな中でリアム(&ボーンヘッド)は平常運転でした。この作品をあえて選んだというより「たまたま時間が合うのがコレだったから」という理由でしたが観て良かった。

上映が終わって振り返ると、上映中から薄々感じていましたが…客が俺しかいない!完全貸切状態でした。今まで1000回くらい映画館で観てるけど、完全貸切だったのは初めてです。これハンマープライス(懐かしい)なら80万円くらいで落札されるやつじゃん。一般料金1900円しか払っていないのがなんだか申し訳なくなってきます。もし俺がいなければ上映しなくて済んだのかも…。あとでTwitterを検索したら他の回でも「客が自分だけだった」という書き込みがされており、経営的に大丈夫なのだろうか…とちょっと心配になりました(上田映劇も高田世界館も近年閉館や取り壊しの危機に遭いながらも復活しています)。二階席が入れるようになったらまた絶対来よう。

一礼したくなる気分で上田映劇を後にして、「メロディグリーン」という中古レコード屋(なんだけどタバコを大量に取り扱ってる謎の店)に寄ってから上田駅から「しなの鉄道」で長野駅を目指します。45分で長野駅に着いて、歩いて「相生座」へ。こちらも1919年開館の100年映画館。実は10年近く前に音泉温楽に行くついでに寄ったことがあります。その時よりなんだか小さく感じるのは…俺がデカくなったから?そしてここでも実際に映画を観れればよかったのですが、ネットで見た館内の写真が割と普通だったのと上映スケジュールが合わなかったので断念。13時を過ぎて小腹も減ってきたので、どこかテキトーなところで軽く食べようかとキョロキョロしながら妻からの「せっかく旅行なんだから日高屋とかで済ませちゃダメだからね」という言葉を思い出し、ネットでそれっぽい店を探してそれっぽい蕎麦を食べました。さすがに美味かった。隣の席で青年が熱燗をチビチビやっており、俺もフツーであれば間違いなく瓶ビールを飲(や)るところなのですが、なんとなく夕食まで酒を我慢してみることに。偉い。

蕎麦屋を出て、近くにある善光寺でお参り。平日だけどそれなりに混んでますね。学生らしき男女グループをちらほら見かけるのは卒業旅行とかですかね。本当は海外行きたかったんだろうな〜と想像してみたり。土産物屋でペナント探したけどありませんでした。なんだかここに来てどっと疲れが襲ってきたので、早めにホテルにチェックインすることにします。たまたま通りかかったバスに乗り込んで長野駅に向かい、新幹線で上越妙高駅へ。トンネルを抜けたら笑っちゃうほどの雪国だったのでニヤニヤしていたら、前の席のカップルも「トンネル抜けたらのやつじゃん」「ガチのやつじゃん」と会話してました。20分ほどで到着。いかにも新幹線のためだけに作られました!という駅でまわりに何もない。コンビニすら見当たらないので、物産店みたいなところでお茶でも買うか…と思ったらお茶どころか水すら売ってない。マジかよ。「今は飲まないけどいつか役に立つ時が来るかもしれない」と地元ブランドの缶ビールだけ買ってホテルにチェックイン。受付のお姉さんの定型的な説明を聞いていると突然驚くべき言葉が…

「18時から1Fのラウンジでアルコール含めて無料で飲み放題となっておりますのでどうぞご利用ください」
「(えっそんなこと予約時に一言も書いてなかったんだが?飲み放題?酒が?無料で??嬉しい!!)はい」

今夜行きたい居酒屋があって17時半の開店と同時に飛び込みたかったのですが、酒人(さけんちゅ)としてこの祭りに参加しないわけにはいかない。といってももちろんそこで終わってしまうわけにはいかないので、2、3杯にしておこう。ガソリンとしてはそれで十分だ。ホテルの温泉でひとっ風呂浴びてから、部屋の大きなベッドでダラダラしたりウトウトしたり。はやる気持ちを抑えつつ、でも18時ピッタリに行くのもカッコ悪いので、そのまま出かけられる格好に準備してから18時10分に部屋を出てロビーに向かいます。ビ、ビールください!

ジン、ウォッカ、ウイスキー、焼酎、ずらっと並べられた酒瓶、どうやらセルフで好きな酒を注ぐシステムのようです。どれどれビールは…おっとこれはソフトドリンクか…これはコーヒー…これは炭酸水だろ…え…まさか…嘘だろ…ビールがないなんて…チェーン居酒屋の一番安い飲み放題コースだって発泡酒くらいはあるぞ…まあそうだよな…世の中そんなに美味い話があるわけがない…。心の中で己の頬をビンタしながらペプシコーラを2杯連続でガブ飲みして「えちごトキめき鉄道」に乗って高田へ。夜の街に繰り出します。早よ酒くれ。

5分ほどで高田駅着。グーグルマップによると徒歩なら1時間かからないくらいだったので帰りは最悪電車なかったら歩けばいいやと安易に考えてたけど、電車から見える風景が漆黒で恐怖しかない。酔って歩くにはリスクが高すぎる。雨はわりと本降りになっていましたが、高田の町は「雁木」という屋根を延長したアーケードのようなもので広いエリアが覆われていて傘をささずに歩けるので快適です。そしてお目当ての「雁木亭」に到着。高田の居酒屋で検索するとまず最初に出てくるような有名店で、太田和彦や吉田類もお気に入りの酒場。旅行の時はどちらかというと「地元の人が気軽に集う店」の方が好きなので、ちょっとどうなんだろう…と不安もあったのですが、店に入って感じた雰囲気にこの夜の勝利を確信しましたね。まずは赤星で乾杯。一口目をごくっと飲んだ瞬間に、新幹線や蕎麦屋やホテルのラウンジで我慢を重ねた場面が走馬灯のように巡った末に喜びが爆発しました。やっと会えたね!

めちゃくちゃ多いメニューの中から迷った末に、ホタルイカとふきみそのなめろう、ドロエビの塩焼き、幻魚の干物を注文しました。全部美味かった。俺はカウンターに座ったのですが、隣では常連のおじいさんが甲類の焼酎ボトルをおともにチビチビやってたり、後ろの座席で地元の仕事帰りだと思われるグループが鳥の唐揚げとハイボール片手に熱い仕事論や下世話トークを交わしていたり、この店を普段使いしているのもよかった。きっと俺バリバリ観光客ってバレてるんだろうな。店員のお姉さん方の接客もフランクでほっこりしました。1人じゃ全然料理を頼めなかったので今度は妻と来たい。きっと気にいるはず。

すっかり良い気分で店を後にし、次の店へ。特に目星はついていないので、フラフラ散歩しながら探すことに。舗装された道から少し外れると雪が結構積もっている。それから10分ほど歩いて、町を横切る川沿いにぼんやり光を放つ良さげな焼き鳥屋(サンクチュアリ)を発見。よし、ここにしよう。入ってみると10人ほど座れるカウンターだけの小さな店で気さくなマスターが一人で切り盛りしています。雰囲気はいいけどまあ料理はさっきサイコーなの食べちゃったからねえ…と、正直期待していなかったのですが、焼き鳥が何これ…やわらかジューシーで超美味いんですけど!どうやら持ち帰りもやっているみたいで注文の電話がひっきりなしにかかってきます。これは良い店を引き当ててしまったかもしれない。酒の神様ありがとう。

本当はもう一軒くらい行きたかったのですが、あっという間に終電の時間が近づいてきたので「せめて日高屋で半ラーメン食べたい…」とぶつぶつ言いながら高田駅へ足早に戻ります。うーん、やっぱり次は上越妙高ではなく高田の方に宿を取った方がよさそうだ。奇声を発しながら誰もいないホテルの温泉に飛び込んで即就寝。うちの猫ちゃんたち元気かしら。

2日目

家にいる時と同じように6時過ぎにばっちり目が覚める。まずは温泉へ。今日も貸切です。しばらく部屋でダラダラしてから朝食へ。ビュッフェだとついつい取りすぎちゃうのよね〜。生卵があるのが地味に嬉しい(ゆでたまごやオムレツはあるけど、生卵って見かけなくないですか)。腹パンになって部屋のベットでゴロゴロしながらテレビを見る。そうそう、これがやりたかったんだよ。これが私のモーニングルーティン。

しばらくダラダラしてから準備をしてチェックアウト。またトキメキの電車に乗って高田駅へ。10分ほど歩いて目的地の高田世界館に到着です。実は昨晩も2軒目を探す途中で入口までは来ていたのですが、入口からは建物の全貌がさっぱりわからなくて「まあ夜だからな」と思っていたのですが、明るいところで見てもやっぱりさっぱりでした。今日はここで2本ハシゴするつもりなので10時からの回と12時回からの回のチケットを買っていよいよ中へ(ハシゴで買うと二本目が割引になります)。入口からは全く想像できない光景が突然目の前に広がる感じ、ディズニーランドのアトラクションみたいというかまさに「世界」でしかなくて、思わず「おー…」と感嘆が口から漏れ出てしまいました。念願の二階席もすごかった。

一本目は「コーダ あいのうた」。邦題から溢れる倖田來未感よ。これは公開時から気になりつつ、タイミングが合わなかったのとオリジナル版も鑑賞済みだったのでまあいっか…とスルーしていたのですが、むしろ今日ここで観るのが「正解」で、そのために今までスルーしてきたんじゃないかと思えるほどベストな映画体験でした。オリジナル版の展開を忘れかけてたんだけど、そっかクライマックスは二階席から眺めるんだよね…と震えながら二階席でマスクの下をぐしゃぐしゃにしました。

二本目は「MONOS 猿と呼ばれし者たち」。去年とても話題になっていた映画で見逃していたのでフツーに嬉しい。画や音がすごいらしいということで、今度は一階席の前方で鑑賞。たしかにどこに連れて行かれるか全然わからないしエンタメとして超面白いんだけど、逆にキメキメすぎて「圧倒される」とまではいかなかったな、と。でもこの二本を連続で高田世界館で観たことはこの先ずっと忘れないと思う。

半ば放心状態で、でも完全に満足した状態で劇場を後にする。もう帰ろうかな。それとも雪の日本海でも見に行こうかな。そういえば昨日飲んだスキー正宗という日本酒が高田の地酒だったことを思い出して、調べてみたら酒造がここから徒歩5分のところにあるじゃないですか。あわよくば試飲とかさせてもらえるかも…と張り切って行ってみたものの休日で閉まっていました(どうやら平日は見学をやっているみたいです)。せめてお土産に買って帰りたいけど駅の土産物屋とかじゃ売ってないだろうな…。地元の酒屋を探して中に入ってキョロキョロしていたら店主に「何かお探しですか?」と声をかけられて「スキー正宗を…」と答えたところ「ここにありますよ」と教えてもらい、復刻版と限定酒の最後の一本を無事ゲットしました。これでもう思い残すことはない。帰ろう、我が家へ。朝ごはん食べ過ぎて全く腹が減らなかったので何も食べずに新幹線に乗って帰宅。猫に「誰やこいつ…」とめちゃくちゃ警戒されました。おわり。

by schooldeathco | 2022-03-21 08:49

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